今朝起きたらビュッフェからの蕎麦の持ち込みどんぶりが部屋にあった。
弘嗣は寝ている。昨夜を思い出す。
ダンスパーティーを見学に行き参加しない弘嗣はビールやらワインを飲んでいた。適当に引き上げ弘嗣は売店でスパークリングワインを一本買ってきた。
部屋で一緒に飲んだ。その時初めて気付いた。「こいつ酔ってる」
カラオケ行こうとか酒買ってくるとかニヤニヤブツブツ言ってる。僕は無視して寝た。そして今朝のどんぶりだ。
船に乗って初めての酔っ払い弘嗣だ。船はいつも静かに揺れている。酔いも早い。起きた弘嗣に聞く「何だこのどんぶり」「え~覚えてないです」まあいいか。

午前中に船内一斉の避難訓練があった。乗船した日にあったので月一なのかな?
部屋にあるかなりしっかりした救命胴衣を持ち一番広い会場に集合。
階段の途中で村松母娘に会う。村松さんは普段からおしゃれで装飾品もこぎれいに。なのに今朝は避難訓練だというのに首には金のネックレス他に何重ものネックレス。指は見えなかったが当然指輪もだろうと推測する。
僕はがっかりした。大勢が集まるので見せびらかそうと!
そして避難訓練の説明を聞きながら突然気付いた。
あの装飾品はせめてもの貴重品だったのだ!
貧乏が身についている僕達はジーンズにTシャツ、ポケットにIDカード(必需品)だけだ。僕は自分の貧乏ゆえの邪推をうんと恥じた。
そして思った。「何も持たないって楽だな、弘嗣」と避難訓練の説明を真剣に聞いている弘嗣の隣でほくそ笑んだ。