今朝は小雨で寒い。南半球は冬だと実感した。波も荒く船内放送で何度も歩行に気を付けて甲板に出ないよう注意があった。明日は南アフリカの南端ポートエリザベスだ。
カネフラと社交ダンスに行った。社交ダンスの初心者教室を終え一休みしていると80代と思われる女性に声をかけられた。「踊って頂けますか?」「いえ、僕は初心者なのでごめんなさい。」「いいじゃありませんか」「ああ、はい。」
僕は混乱した頭でうっかり返答してしまった。
混乱した理由は二つある。一つは彼女に声を掛けられるのは実は二度目なのだ。
普通社交ダンスの初心者教室は先生が二人(男性)つき大勢で時間制で基礎を習う。その後同じフロアで続いて中級上級の方々が先生なしで自由に楽しむ。
その初級から上級にチェンジする時に声を掛けられたのだ。一度目はとんでもないと丁寧にお断りして逃げた。
とんでもない!にも理由がある。
この船に乗船して一週間ほどたった時気になる女性二人を見かけた。一人は80代と思われる方で黒っぽいロングドレスにローヒール、腕を組まれている方はやや若くやはり淡いピンクのワンピース。これからどこぞのパーティーに行ってもおかしくない出で立ち。僕と弘嗣はさすが豪華客船と思った。
その後レストランや廊下、デッキでお見掛けしてもいつもお二人腕を組まれてゆったりと歩いている。
弘嗣に聞く。「村松英子って女優知ってる?」「知りません」「皇族にもゆかりのある美人女優でえりちゃんっていう娘さんがいてあの二人気品もあって村松母娘にそっくり。」「へえ」「名前忘れたけど皇族の誰かを紹介してもらったこともある。後三島由紀夫の息子とか」「へえ、もう一人の方娘さんですかね」「だと思うよ」その後僕たちの間では勝手に村松さんと呼んでいた。
村松英子さんとは舞台で二度共演したことがあり可愛がって頂いた。
その村松さんに二度も声を掛けられたのだ。「ああ、はい」しかなかった。
最初はワルツでなんとか行けた。「村松英子さんって女優ご存知ですか?」「いいえ」「昨夜ダンスパーティーに見えませんでしたね?」「混んでらっしゃると思って」「そうでもなかったですよ。」「今日娘さんは?」思い切って聞いてみる。「これから来るんじゃないかしら」村松英子さんと思うと余裕で聞けた。
しまった!次はタンゴだ。ごめんなさい。いいじゃありませんか。
離れる様子もなく教えてくれながら時間まで踊り続けた。
いつの間に娘さんが離れたソファーで見ていた。お二人に丁寧にお礼を言った。

「弘嗣、村松さんと踊ったよ」「へえ、何で?」「誘われたんだよ」「何で?」
「何でだろう?」