ここに来て初級者ダンス教室に何回か参加し基礎を教わった。
上級者のダンスパーティーも見学に行った。
「祝!南半球航行記念!おしゃれをしてダンスを楽しみましょう」18時~20時。
船内新聞を見て俄然燃えた。
昼間、初級者自由教室に上級者の熊木美砂子さん(船酔いするのに船旅が好き)にお願いして個人レッスンを受けた。
「高いわよ!」「私は覚えるのに何百万円もかかってるのよ」「講師もしてたの」色々言われながらも嫌みのない方で「ビールご馳走します」と調子に乗って夜のダンスパーティーもお願いした。
さほど広くはないが雰囲気のあるホールで 僕はネクタイにスーツ姿で熊木さんを待った。熊木さんは肩開きの首周りは紫のレースに縁どられた黒いロングドレスでピンクのダンスシューズが決まっていた。
僕は少し気おくれしたが「よろしくお願いします!」と照れながらもはっきり言った。
社交界にデビューする少女のように。

司会の挨拶の後、曲が流れた。広いホールはまだだれも踊っていない。
皆壁際のソファーに座ったりバーカウンターに腰掛けたりしている。
僕の撮影隊の弘嗣はすでに生ビールを飲んでいる。
「行きましょう!」僕は熊木さんの手を取る。
まだ誰も、、、。と言う彼女の手を取りホール中央に、僕達は真っ先に踊り始めたがタンゴに曲が変わると僕はしどろもどろ 熊木さんは違う!違う!とスロースロークイッククイックスローと耳元で。後でビデオを見たら弘嗣が大笑いしている。
熊木さんに他流試合してきなさいと言われ近くの女性に声を掛ける。
これは教室で最初に教わった。右手を差し出し、踊っていただけませんか?と丁寧に誘う。僕は初心者っぽい若い娘に声を掛けた。
ヴィヴィアン・リーに声をかけるクラーク・ゲーブルの気分だったが弘嗣が撮ったビデオは全く違っていた。その他二人の女性と踊った。
弘嗣はすでに赤ワイン白ワインを飲んで酔っていた。熊木さんは疲れて退場。
大汗をかいたが楽しかった!
弘嗣がビール飲みましょうと売店でビールと濡れ煎餅!を買い初めて部屋飲みをした。

帰国までに何とか社交ダンスをマスターしたい僕に熊木さんが個人レッスンを約束してくれた。「本当は高いのよ」と何度も言いながら。
覚えたところで役に立つのかしらと思いながら「今を生きる」なんて弘嗣と酔いながら呟いた。