船がモーリシャスの港ポートルイスに着岸したのは9:15分だったので船頭のデッキから港の様子が一望出来た。
デッキから見る港は正面に巨大な山々が城壁のように連なりそのすそ野に港と街並みが平らに広がって見えた。(山は800m前後だ)
デッキから右下を見下ろすとターミナルと思われる巨大な屋根と20台程のバスが連なって小さく見える。
湾の右側にはタンカーのような大型船と大小の釣船が何艘も停泊している。
何しろこの船は遮るもののない20階建てのビルの屋上からの眺めのようだ。

いよいよ下船だ。
この船の寄港地からのツアーは大まかにいつも五つのコースに分かれる。
まず下船しないで船内に留まる人。下船したら港からすぐに自由行動する人。
下船したらまず送迎バスで港を離れメインの街に行きそこから時間まで自由行動の人。下船したら前もって予約していた幾つかある観光コースをバスで巡る人。
下船したら飛行場から行きたい国へ数日行き次の寄港地に自分で戻る。
以上全て前もっての予約が必要だが自由に選べる。
最も重要なのは帰船厳守だ。

モーリシャスは東洋の貴婦人だと言われ海も美しくサンゴ礁もあるというのに
何故か観光コースに海がない。
6コースもあるのに七色の大地とかラム酒工場とか大聖堂とか興味のあるものはなかった。
海が見たい僕は取り敢えず送迎バスでメインの街へ行き自由行動を東京で予約した。

モーリシャスに着く二日前からはパソコンで弘嗣の仕事だった。
メインの街から海に行きたいから海を調べて。と僕。
ブルーベイというサンゴ礁のあるビーチは良いが港の正反対にありタクシーで往復2時間。ダメだ、集合時間に間に合わない。
次ダメだ。次 モンチョイシービーチがタクシーで往復1時間の場所にある。
そこに行こう。タクシーはどうする?(メーターがなく交渉制)モーリシャス・ルピーはない。ドルは小銭がなく100ドル大丈夫か?
弘嗣がAIに聞いた英文をメモった。タクシーの運転手用だ。
「我々はモンチョイシービーチに行きたいが 往復100ドルで行ってもらえるか?」「貴方は1時間ビーチで待ってもらえるか?」「運賃は後払いでいいか?」このセリフは逃げられたら困るという弘嗣のアイデアだ。
メモは3枚だ。僕はそれくらい直接言えると思ったが取り敢えずポッケに。

当日送迎バスはメインの街に着いた。ここからは自由行動だ。タクシーが見当たらない。ここからは行動の水島だ。まだいる白人の女性ガイドに聞く、わからず男性ガイドに。「ホテル」とだけわかったのでサンキューと近くのホテルに行く。ホテルの正面玄関にタクシーも運転手らしき人もいない。
立派な制服を着たドアマンにぺらぺらと英語で聞くつもりだったのに「タクシー?」とだけ言ってポッケから運転手用のメモをそれも3枚見せた。
ドアマンは受付の女性に何やら言うと自分の携帯をかけ10分ここで待てと言う。
運転手用のメモを僕に返しどうやらタクシーを呼んでくれたようだ。
ホテルのロビーで待つことにした。
ロビーに手頃な大理石のベンチがあったのでまずは一安心と腰かけると内側は池で錦鯉が数匹泳いでいる。弘嗣が「ダメですよそこは!向こうのソファーに」と言うが無視して上を見上げると なんと我々の船パシフィックワールド号に勝るとも劣らない吹き抜けのロビー。弘嗣が血相変えて「五つ星ですよ。このホテル五つ星ですよ!」確かにロビーに続くレストランも豪ジャスだ。
それにしてもあの豪ジャスな船に2週間以上乗っていて 眩いシャンデリアにまだ慣れず五つ星に大はしゃぎが理解できない。
タクシーが来たことを告げられ乗り込むときにふと振り返ると 錦鯉の池の大理石のベンチにどこかの飛行機のパイロットやCAが大勢座っていた。

タクシーでインド洋の貴婦人を見に行く。

弘嗣の好きな五つ星ホテル

弘嗣の好きな五つ星ホテル