この日は朝から晴れてはいるが雲が多く湿気もあった。
夕方になると雨と風が強まり船もかなり揺れる。そしてブオーンという船の警笛が鳴る。
海を見ると霧でほとんど視界が無く警笛が連続して鳴り 少し怖くなった。

甲板には出られないので朝から映画を見た。映画は毎日違う作品をやっているが日によって字幕が英語、韓国語、中国語、日本語と違うので見たい映画でも見られないこともある。
今日は松竹映画「キネマの神様」山田洋次監督。
松竹100周年記念とある。沢田研二、宮本信子始めそうそうたる役者陣が揃っている。
監督になる夢を持った青年が夢を諦めて落ちぶれて初老になるという話だ。
青年時代と初老時代がオーバーラップしながら物語は進む。
僕はこのての話が好きだ。若い頃の生き様や夢が初老になって気付くと全く違う人生になっていた。
それもアッという間に。僕にも当てはまる。
極貧の子供時代 新聞配達を8年もやり辛かった。その僕が今は豪華客船の船上でこれを書いている。
大スターになって海の見える高台に庭の広い木造りの大きな家に住むのが夢だった。
今は飲み屋のマスターで 区営の高齢者住宅に一人で住んでいる。

この映画を見て隣に弘嗣がいるにも関わらずよく泣いた。
近年自分のことで泣くことが全くなくなった。映画やテレビ、見聞きした些細な感動ではすぐ泣く。
カタルシス(浄化作用)で泣くことはいいことだと言う。
老人が涙もろくなるのは 無意識に健康を保っているのかもしれない。

プールのある甲板にて

プールのある甲板にて