小倉弘嗣君は20年来の店の客で 今は53歳花の独身。
15年前雑魚寝はピンチで部屋の家賃が払えず 僕はルームシェアを探していた。
名乗りを上げてくれたのが弘嗣君。彼は大塚にマンションを買っていたが リーマンショックの影響で仕事が無くローンが払えず今なら売れるので僕でどうかと。僕は大賛成だった。
それから10年一緒に住んだ。
彼はIT関係の仕事で僕の師匠だ。10年問題もなく一緒にいられた理由は幾つかあると思うが 彼がサラリーマンで僕が夜の仕事だからが一番大きいかな。
僕が帰ると彼は寝ている。僕が起きると彼はいない。彼が帰ると僕はいない。
僕は昼間一人の時間が持て彼は夜一人の時間がある。
ラブラブなカップルだったら耐えられないすれ違い 僕達はラブラブじゃなかったからうまくいった。
性格も正反対。どちらかというと僕は積極的 弘嗣君は消極的。
江上君が絶対的信頼のもと店を陰で支えてくれているとしたら 弘嗣君は私生活の平安をやんわり与えてくれる。
こんな幸せってある?

ところが去年の夏 両親の要望で22年いた東京を離れ弘嗣は札幌に帰ることになった。
本当に淋しかったがお互いにこの日が来ることは分かっていたので 「じゃあな!」って感じだった。
平安な生活はともかくパソコンに入力したパスワードなど全て弘嗣に任せていたので困る。
そんな時二人で行きつけの上野のスナックに挨拶に行った。
僕は弘嗣がいないと困るとマスターに愚痴った。するとマスターがたまたま居合わせた客の寺田直樹くんを紹介してくれた。側で話を聞いていた寺田君が「パソコンでしたら僕も少しは出来ますよ。」と言ってくれた。僕と弘嗣は同時にお願いします!と言った。
そして北海道と僕の部屋で僕のパソコンの引継ぎが始まった。

そして寺田直樹君は今、留守の間の店の伝票整理をしてくれている。
渡りに船というか棚からぼたもちというか 弘嗣同様口数の少ない直樹君は僕に平安をもたらせてくれる。感謝感謝の今までを振り返ると いつも最後に行き着くのは僕が6歳の時に姉兄弟を捨てて 8人の子供を捨てて蒸発した父親の代わりに 女手一つで僕たちを育ててくれた母 市恵さんだ。
明治、大正、昭和、と生き抜き平成元年に死んだ。
そして親父(Donald・Richie)だ。2013年に死んだ。

いつも寝ている弘嗣君

いつも寝ている弘嗣君