今日は朝から快晴ですでに太陽が熱い。
船旅から一週間 毎日360度海と空だけという生活にも少し慣れた。
自主企画の芝居諦めた。問題は脚本ではなく稽古場だ。
担当の人と話して気付いたのだがこの船は広く何もかも揃っているのだが ドアのある個室というものが一つもない。例えば卓球している場所に仕切りはあるが、仕切りの隣は社交ダンス、同じフロアーで中央の吹き抜けの螺旋階段の向こうは水彩画教室といった具合だ。船内を歩く人はどれも見ることができる。もちろんその場での急な参加も可能だ。台詞の稽古中に側を人が歩いたり立ち止まったりは考えられない。鍵のある個室は客室だけではないかと。「一長一短ですね」と僕 「私もそう思います。」と彼。
あまりにも暑いので弘嗣とプールで泳ぐ。ジャグジーにも浸かり午後2時にはプールサイドの無料のバニラアイス。僕は太陽の下弘嗣は日陰で長椅子に寝そべる。
サングラスの下で「これが余生を楽しむことか」とふと思いフッと笑う。
というのは僕は70歳の時にアウトドアを止めインドアに行こうと思った。
若いころに散々やってきたスキーウエアーもダイビングセットも登山靴も処分してこれからはインドアにして余生を楽しもう! ゆったり穏やかに過ごす自分を想像してワクワクした。
インドア!さて何にしよう。今までやった事のない事!
その前に何10年も持っていて弾けないギター ハーモニカ 笛(各種)お習字セット 彫刻刀など他にもあったか、いつかやると思っていた物 70歳にいつかはないときっぱり処分した。
手のつけていない油絵セットがあった。何10年も前に油絵なんて面白そうの一言で友人がプレゼントしてくれたものだ。僕は字も下手だが絵も輪をかけて下手だ。油絵具は使えた。
「これだ!」今までやった事がなく苦手なもの。
渋谷区の会報を見ながら一か月程で安い油絵教室を見つけすぐに参加した。
週に三回 5年近く通った。
皆さんご高齢で5人の教室。偶然にも船旅の前に諸事情で教室を閉める事になった。
僕は船旅の前に油絵の佐藤先生にお礼の手紙を書き最後にこう付け加えた。
70歳で余生を楽しむために始めた油絵 この5年で気付きました。
僕には余った生などなくギュウギュウに詰まった生しかないと。
その一環として船に乗ります。
夜は「トップガン・マーヴェリック」を観た。
スケッチブックに弘嗣の似顔絵を描いた。
月も星もない今夜は 水平線と空の境もなく本当に真っ暗だ。